心疾患の既往のない孤立性低HDLコレステロールを認める若年男性の初期介入
NEJM Knowledge+ 2020.5.13
特記すべき既往のない28歳男性。
コレステロール値の相談で来院。
結婚しているが子供はいない。喫煙なし、飲酒は適量(7 alcohol beverages/week)、違法薬物使用なし。
週末は妻と散歩しているが、それ以外は座っていることが多い。
両親は2型糖尿病。
身体所見:身長 178 cm、体重 77 kg、BMI 24.4。
血圧(座位)125/80 mmHg、HR 76/min、ウエスト 98cm。
その他身体所見に異常なし。
本症例に推奨されるのは次のうちどれか?
A, 飲酒を控える
B, 有酸素運動
C, ナイアシン開始
D, フェノフィブラート開始
E, アトロバスタチン開始
(解答)B
Key point
心疾患の既往のない孤立性低HDLコレステロールを認める若年男性の初期介入は身体活動を増やすことである。
・Lipid-modififying therapyの主目的はASCVDのリスクを減少させることである。
・糖尿病のない40歳以下の若年者には、LDL-chol 190 mg/dL以上、またはASCVDの家族歴のある患者ではLDL-chol 160 mg/dL以上であればスタチン開始が推奨される。
・ASCVDのリスク計算は、20歳の若い患者では生涯のAVCSDリスクを計算できますが、40歳以上では10年間のAVCSDリスクのみ計算可能。
・患者の10年後のASCVDリスクは、40歳以上の患者さんの心血管リスク低減に関する議論の出発点として推奨されており、この年齢層でのスタチン治療の開始を推奨するための臨床医の指針となる。
・20~39歳の患者では、推定生涯リスクのみを計算することができる。このリスク推定値は、ライフスタイルの介入を奨励するために使用できるが、この年齢層ではLDL-コレステロールの絶対値や家族歴に基づいてスタチン治療の開始を決定するための直接的な要因にはならない。
・低HDLコレステロールは冠動脈危険因子であるが、孤立性低HDLコレステロール値を上昇させる治療の臨床的有用性については議論の余地がある。
・運動はHDL-コレステロール値を上昇させるので、血清脂質への影響は別にしても、座り仕事をしている人には推奨されるべきである。
・適度なアルコール摂取もまたHDL-コレステロール値を上昇させる;この効果は、適度なアルコール摂取が冠動脈リスクの低下と関連している理由の一端を説明しているかもしれない。過度のアルコール摂取とは、男性では週に14杯以上、女性では週に7杯以上と定義される。
参考文献
・NEJM Knowledge+ 2020.5.13
NEJM Knowledge+ April 28, 2020 Charcot関節の症例プレゼンテーション
NEJM Knowledge+ April 28, 2020
〈Question〉
45歳女性。3週前から左足背の発赤と腫脹が出現。体重負荷による違和感を伴う。
既往歴:
・病的肥満
・甲状腺機能低下症
発熱なし。左足はここ数年で扁平足となってきており、足背に紅斑、熱感、腫脹を認める。
左足関節は全方向への可動良好で、運動時と体重負荷で軽度の疼痛を認める。
中足骨頭の振動覚は低下しており、アキレス腱反射は消失している。
下肢に病変はない。
血液検査:白血球数 5300 (normal range 4500-11000), ESR 22 (normal range 1-25)
関節液:白血球数 400, 結晶なし。
最も適切な診断はどれか?
A, 骨髄炎
B, 偽痛風
C, 化膿性関節炎
D, 糖尿病性神経性関節症(Charcot関節)
E, 蜂窩織炎
〈Answer〉
D, 糖尿病性神経性関節症
Charcot関節
・糖尿病患者の0.1-0.9%に生じる。
・足関節と膝関節に好発する。
・変形に比較して軽度であるが疼痛を訴える場合もある。
・糖尿病性神経障害を生じている場合は、固有感覚が障害されるため、歩行中の荷重が異常になり、仮骨や潰瘍を生じやすくなる。
また、運動性ニューロパチーや感覚性ニューロパチーは、足の筋肉の動きを障害し、足の構造の変化を引き起こす。
参考文献:
・StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2020-.2019 Dec 31.
・ハリソン内科学 第5版 p2488
Key point
市中発症敗血症のうち耐性菌はどの程度いるか? JAMA Network Open
Prevalence of Antibiotic-Resistant Pathogens in Culture-Proven Sepsis and Outcomes Associated With Inadequate and Broad-Spectrum Empiric Antibiotic Use
〈知られている事実〉
・敗血症は生命を脅かす重篤な病態であり、入院患者の主な死因である。
・早期の抗菌薬治療が良好なアウトカムにつながるとされており、各国のガイドラインでは敗血症が疑われる患者では広域抗菌薬のエンピリック療法が推奨されている。
〈分かっていない事〉
〈目的〉
培養陽性の市中発症敗血症における耐性菌の割合と不適切・不必要な広域抗菌薬の使用のリスクを解明するため
〈方法〉
Study design
・Cerner Health Factsを用いた後ろ向きコホート研究
・2009年1月から2015年9月の期間に入院して20歳以上を対象
退院患者やInternational classification of disease, Tenth revision, ICD-10-CMを満たさない患者は除外
・104の施設から17430人の市中発症敗血症患者が対象
対象
・血液培養陽性の市中発症の敗血症を対象
・除外:培養陰性、転院患者、長期間施設入所中、院内発症の敗血症
・不適切抗菌薬:採取された培養から、初回投与された抗菌薬に対して感性を示さない微生物が検出された場合、不適切抗菌薬とした。
・不必要抗菌薬:広域抗菌薬投与をされたが、広域抗菌薬がターゲットとする微生物が検出されなかった場合不必要とした。
Outcomes
・Primary outcome:不適切・不必要抗菌薬投与と院内死亡率の関連性
・Secondary outcome:院内発症の急性腎障害、C difficile感染症
〈結果〉
Patients characteristics
・尿路感染症 48.9% (8515)、呼吸器 32.9% (5728)、腹腔内 13.6% (2373)、皮膚軟部組織 10.3% (1787)であった。
・耐性菌保有患者は、より多くの併存疾患を有し(P<0.001)、呼吸器感染症に罹患しており(P<0.001)、呼吸器培養陽性が多く(P<0.001)、昇圧薬や(P<0.001)、人工呼吸器(P<0.001)を必要とし、ICUへの入室を必要とし(P<0.001)、院内死亡が多かった(OR 1.38, 95%CI 1.26-1.50)
・広域抗菌薬を投与された患者における耐性菌の検出割合
・広域抗菌薬の不適切、不必要投与とoutcomesとの関連性
▶︎広域抗菌薬の不必要投与は院内死亡率と関連していた(P=0.007, 95% CI 1.06-1.40)。
また、不必要投与ではC difficile感染症が多かった(P=0.04, 95%CI 1.01-1.57)。
〈結論〉
・ほとんどの市中発症敗血症の患者は耐性菌を有していない。
・エンピリック治療として広域抗菌薬が投与されることが多い。
・不適切、不必要な広域抗菌薬は高い死亡率と関連している。
・より一層の賢明な広域抗菌薬の使用と耐性菌を検出する迅速キットの開発が必要である。
DKA/HHSの診断と治療
〈疫学〉
・好発年齢
DKA:18-44歳(56%)、45-65歳(24%)、20歳未満(18%)
・死亡率
〈DKAの病態〉
〈DKA・HHSの診断〉
・HHSは数日から数週にかけて進行するが、DKAはもっと早く進行する。
・意識状態は清明から無気力や昏迷まで多様であるが、HHSでは昏迷をきたしていることが多い。
DKA・HHSの診断基準
▶︎元々は若年者1型糖尿病患者に対して言われていた概念だが、
・血清Naは血糖上昇により見かけ上での低値を示していることが多い。
・血清Kは上昇していることが多い(インスリンの欠乏やアシデミアによる)。
・血清Pに関しても上昇していることが多い。
・高アミラーゼ血症はDKAの21-79%で認められる。
〈DKA・HHSの治療〉
・血清Kは病態改善に伴い著名に低下するため注意を払う。
・また、治療の合併症としては脳浮腫が有名であるが、小児例の0.3-1.0%で認められ、成人例では極めて稀である。発症すれば死亡率は20-40%とされる。治療はマンニトールや人工呼吸器管理が必要である。
〈ketosis-prone type 2 Diabetes〉
・African-Americanを中心に報告されている病態。
・発症時の特徴としては
② 新規に診断される成人の大半は肥満で、40歳前後の中年に多い(男性に多い)
③ 新規診断時の症状の進行は比較的急速で、1ヶ月前後の間に多飲、多尿、体重減少などの症状を呈する
④ 家族歴あり
参考文献:
・Diabetes Care 2009 Jul; 32(7): 1335-1343
Cowden病
・常染色体優性遺伝
・75%以上に乳房異常を認められる。乳房線維嚢胞症か腺癌である。
〈遺伝学的特徴〉
・CWDは遺伝学的に単一ではない疾患である。現在は6つの型が知られている。
・CWD1:PTEN遺伝子変異
・CWD2:SDHB遺伝子変異
・CWD3:SDHD遺伝子変異
・CWD4:KLLN遺伝子の高メチル化により生じる
・CWD5:PINK3CA遺伝子変異
・CWD6:AKT1遺伝子変異
参考文献:
・ハリソン内科学第5版 p2398
・N Engl J Med 2020; 382:e29
胸水所見の鑑別診断ポイント
*胸水pH≦7.2
・膿胸性肺炎随伴性胸水
・食道破裂
・リウマチ性胸膜炎
・結核性胸膜炎
・がん性胸膜炎
・血性胸膜炎
・全身性アシドーシス
・肺吸虫症
・ループス胸膜炎
*胸水好酸球増加:血性胸水、肺吸虫症
*胸水アミラーゼ上昇:膵炎、食道破裂
*胸水TG≧110 mg/dL:乳び胸(→手術、外傷、リンパ腫、結核、リンパ増殖性疾患)
*胸水糖≦60 mg/dL:悪性腫瘍、膿胸/complicated parapneumonic effusion、結核、食道破裂、リウマチ性胸膜炎、ループス胸膜炎
参考文献
・MKSAP 18 Pulmonary and Critical Care Medicine
追加ございましたらコメントお願い致します。
超急性期脳卒中の診断
〈Stroke mimics〉
(Stroke. 2003;34:71–76)
・Stroke mimickerのリスクファクターとしては、
若年者、NIHSS低値、認知機能障害の既往、身体所見上で神経学的異常を指摘できない
が報告されている。
・mimickerと鑑別ポイント
Am Fam Physician. 2015 Apr 15;91(8):528-536.
〈脳梗塞の分類〉
・病理学的分類を行うことは治療方針の決定の観点から必須である。
〈Risk factor〉
・年齢、家族歴、糖尿病、慢性腎臓病、睡眠時無呼吸症候群、高血圧、心房細動、症候性頸動脈疾患、鎌状赤血球症
・清涼飲料水の常飲であったり、魚類、野菜類、果物類の低摂食もリスクファクターである。
・女性であれば、経口避妊薬の使用も軽度のリスクファクターとなる。
〈診断〉
・典型的な病歴は起床時や急性発症の症状で、所見としては片麻痺と構音障害が典型的である。
・最も重症な病歴は発症時間である。→tPAの適応時間の決定
・NIHSSを取れることは極めて重要である。
→適切なtPA使用、Stroke mimickerとの鑑別、予後推定にも使用可能である。
脳梗塞の典型的な症状
Am Fam Physician. 2015 Apr 15;91(8):528-536.
〈後方循環系脳卒中、めまいの鑑別の観点から〉
・主訴が「めまい」で救急外来あるいは一般外来を受診した44歳以上の成人を対象とした研究では、めまいのみの症状の患者のうち、わずか0.7%のみが脳卒中やTIAであったしている。しかし、初診ではその内44%が見逃されている。
(CMAJ June 14, 2011 183 (9) E571-E592)
(CMAJ June 14, 2011 183 (9) E571-E592)
*AICA梗塞の除外は極めて難しく、Head impulse testのみの感度は62%。
→HINTsに加えて、聴力の確認を行うHINTs+が有用とされる。
〈検査〉
・血液検査
血算、生化学(肝機能、腎機能、電解質、血糖)、凝固(TAT、D-dimer)
・頭部CT
▶︎Early CT sign(発症1-3 時間)
・hyperdense MCA sign(中大脳動脈水平部の高吸収)
・レンズ核の不鮮明化
・島皮質の不明瞭化・直線化
・皮髄境界の不明瞭化
・脳溝の消失
・頭部MRI
DWIで高信号、ADC mapで低信号
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参考文献
・Am Fam Physician. 2015 Apr 15;91(8):528-536.
・CMAJ June 14, 2011, 183 (9) E571-E592