〜日々の勉強報告〜@日本三景

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新規発症の腹水の評価

JAMA. 2016 Jul 19;316(3):340-1. doi: 10.1001/jama.2016.7600. PMID: 27434446より

 

[目次]

① 症例提示

② 新規発症の腹水の評価

 

① 症例提示

■未分類の膠原病、長期の肺高血圧症のある60歳代白人女性が新規発症の腹水を主訴に受診した。飲酒歴・違法薬物の使用歴なし。肝疾患の家族歴なし。内服薬はジルチアゼムとフロセミド。

■身体所見:

 ・BP 108 /54 mmHg, PR 64/min

 ・黄疸はなく、軽度の頸静脈怒張あり。

 ・心音 整、Ⅱ音の分裂を認め、左下部胸骨辺縁にGrad 1/6の汎収縮期雑音あり。

 ・腹部は膨満しており、側腹部に濁音あり。前胸部にクモ状血管腫あり。

■腹部超音波:肝辺縁は不整で、胆管は正常。著しい門脈・肝静脈の拡張あり。脾腫あり。腹水あり。

■血液・腹水検査所見:

Test 
Serum 
Aspartate aminotransferase, U/L 
Alanine aminotransferase, U/L 
Alkaline phosphatase, U/L 
Total bilirubin, mg/dL 
Albumin, g/dL 
White blood cell count, /wL 
Hemoglobin, g/dL 
Platelets, x 103/pL 
International normalized ratio 
Ascites 
Appearance 
Albumin, g/dL 
Protein, g/dL 
Red blood cell count, x 106/uL 
White blood cells, /mm3 
% Neutrophils 
% Lymphocytes 
Patient's Laboratory Values 
37 
9 
42 
0.6 
2.5 
4300 
9.6 
110 
1.1 
Yellow 
1 
3.5 
258 
145 
2 
55 
Reference Range 
15-41 
14 
24-110 
0.4-1.5 
3.5-4.8 
3200-9800 
12.0-15.5 
150-450 
0.9-1.1

Q:この患者の腹水の原因は?

A:慢性的な右心圧上昇による腹水

 

② 新規発症の腹水の評価

■原因:肝硬変(85%)、腹膜悪性腫瘍(7%)、心不全(3%);その他にネフローゼ症候群結核;約5%の患者に1つ以上の原因を認める

■診断アプローチ:腹水穿刺;合併症は腹水漏出(5%)、出血・感染症(2%以下)

■腹水検体:細胞数+分画、総蛋白、アルブミン(SAAG:血清アルブミン-腹水アルブミン

SAAG、腹水蛋白数による鑑別:

1 g/dL)a 
Cirrhosis 
Heart failure 
Peritoneal 
malignancy 
SAAG 
(Threshold 21. 
High 
High 
Low 
Ascites Protein 
(Threshold 22.5 g/dL)a 
Low 
High 
High

SAAG 1.1 g/dL以上+腹水蛋白数 2.5 g/dL以上心不全を示唆(Sn 53.3%, Sp 86.7%)(Hepatology. 2014;59(3):1043-1051.

BNP 364 pg /mL 以上は心不全関連の腹水の診断に有用(診断精度99.1%)(Hepatology. 2014;59(3):1043-1051.

鼠径リンパ節腫脹の鑑別診断:MGH case record

Case 11-2021: A 39-Year-Old Woman with Fever, Flank Pain, and Inguinal Lymphadenopathy

 
N Engl J Med 2021; 384:1448-1456
 
今回は、MGH case records "Case 11-2021: A 39-Year-Old Woman with Fever, Flank Pain, and Inguinal Lymphadenopathy"から勉強した内容をまとめてみました。
 
Dr. Richelle C. Charlesによるリンパ節腫脹の鑑別診断の考え方⦆
・リンパ節主張の鑑別診断は多岐に渡る。感染症、自己免疫性疾患、悪性腫瘍、そしてその他の様々な病態を含む。
・リンパ節腫脹の初期評価は、局在性か全身性かを判断することが一般的である。
・この初期評価に加え、病歴・身体所見(疫学的な手がかりを明らかにする;猫との接触渡航歴、虫刺され、リスクの高い性交渉など)、及びリンパ節の遠位部の病理学的特徴を把握することで、大半の症例は診断にたどり着く。
・両側鼠径リンパ節腫脹の原因は、性感染症のような中央部位からの広がり、または両下肢への病原体の侵入が考えられる。
 
⦅鼠径リンパ節腫脹の原因⦆
下肢または局在性の感染症
・化膿性リンパ節炎(staphylococcal or streptococcal
結核性リンパ節炎
・ネコひっかき病(Bartonella henselae
・ノカルジア症
・スポロトリコーシス
・野兎病
 
・鼠径リンパ肉芽腫
・軟性下疳
・梅毒
・性器ヘルペス
悪性腫瘍
白血病・リンパ腫
転移性腫瘍(メラノーマ、外陰部、子宮頸部、陰茎、肛門、直腸)
自己免疫性疾患
全身性エリテマトーデス
皮膚筋炎
関節リウマチ
サルコイドーシス
 
 
BARTONELLA HENSELAE INFECTION(Cat scratch disease)⦆
・猫、特に子猫は、B. henselaeの主な保菌者であり、唾液を介して、あるいはひっかき傷を介して細菌感染をきたす(猫の約50%がB. henselaeの血清陽性)。( N Engl J Med 1993;329:8-13. J Infect Dis 1995;172:1145-1149.
・一般的には、接種後3~10日後に引っ掻いた部位に皮膚病変(丘疹、小水疱、膿疱など)が形成されるが、このような病変が常に見られるわけではなく、また適切に識別されるわけでもない。(Am J Dis Child 1985;139:1124-1133.
・接種から約2週間後には、猫ひっかき病の特徴である感染部位に近接した局所リンパ節腫脹を発症する。(Am J Dis Child 1985;139:1124-1133.
・リンパ節腫脹の最も多い部位は、腋窩、滑車上、頸部、鎖骨上、顎下である。(Am J Dis Child 1985;139:1124-1133.
・全身性リンパ節腫脹はまれだが、最大で3分の1の症例が2つ以上の解剖学的部位を侵す。(Am J Dis Child 1985;139:1124-1133.
・人への感染のメカニズムとしては、感染したノミの糞が猫の爪を汚染し、人の傷口に生菌を接種することが考えられる。
・予防には、猫の治療よりもノミの駆除が重要である。(J Clin Microbiol 1996;34:1952-1956.

心房細動に対する早期rhythm control

NEJM journal watch General intarnal medicineから引用させて頂きます。
 
「心房細動に対するリズムコントロールの有用性を示した臨床研究」に関して読んでみました。
 
【基本知識】
・最小の症状もしくは無症状のAfに対するレートコントロールまたはリズムコントロールは永遠のテーマに思える。
・AAFIRM試験(N Engl J Med. 2002; 347: 1825-33.)
 ▶︎rhythm controlによる心房細動の管理はrate controlを凌ぐ生存効果はなく,rate controlには薬剤による有害事象のリスクが低いといった有効性の可能性がある。(最大の臨床研究)
 
【デザイン】
国際的、多施設、ランダム化比較試験
 
early rhythm control:抗不整脈薬、アブレーション
vs
usual therapy:適切なrate control下で出現したAfに関連する症状にだけrhythm control
 
primary outcome:心血管イベントによる死亡、脳卒中心不全または急性冠症候群の増悪による入院
 
【対象患者】
最近心房細動と診断された(中央値 36日)2789例(平均年齢 70歳)
 
・75歳以上
TIA脳卒中の既往
・以下の基準の2つを満たす
 ー65歳以上
 ー女性
 ー心不全
 ー高血圧症
 ー糖尿病
 ー重度の冠動脈疾患
 ー慢性腎臓病
 ー左室肥大
 
【結果】
・primary outcomeはrhythm control群の方がはるかに低かった
 (100person-yearsあたり3.9 events vs 5.0 events

f:id:jmu43-doctors:20210214204510p:plain

・安全性は両群間で有意な差はなかった。
・洞調律はrhythm control群の方が多かった(82% vs 61%@2年間)。
 
文献:N Engl J Med 2020; 383:1305-1316(The Early Treatment of Atrial Fibrillation for Stroke Prevention Trial (AF

 
・rhythm controls戦略は心房リモデリングが起こる前の早期に開始された。ほとんどの参加者は抗凝固療法を継続した。アブレーションを受けた参加者は比較的少なかった(1年後までに約8%、2年後までに約20%)。
・この臨床研究は我々の診療を劇的に変えるものではないが、この結果とCABANA試験(NEJM JW Cardiol Jun 2019 and JAMA 2019; 321:1261)とA(NEJM JW Cardiol Apr 2018 and N Engl J Med 2018; 378:417)からの結果は、正常な洞調律が重要であることを示している。

Acute focal bacterial nephritis(AFBN)のまとめ

・以前は、acute lobar nephroniaとして知られていた(膿瘍形成なしに腎臓に限局する感染症
 1979年にRosenfieldらによって提唱された。(Radiology. 1979;132(3):553-561. 
・AFBNは非複雑性腎盂腎炎と腎膿瘍の中間的な疾患概念である。腎膿瘍の初期段階である可能性がある。
 (Obstet Gynecol. 1988;71(Suppl 3 Pt 2):510-511.
・AFBNは現在、症例報告や少数のケースシリーズでしか報告されておらず、稀な疾患である。
 
⦅臨床症状⦆
・literature reviewでは、発熱(98%)、白血球上昇が最も多く認められた。また腎盂腎炎と同様に側腹部痛(80%)も多く認められた。排尿困難や下部尿路感染症の症状はわずか18%であったと報告されている。
▶︎上部尿路感染症の症状だけでは腎盂腎炎とAFBNは鑑別できない。
・また、7%で腹部腫瘤の触知も認められたとされている。
BMC Infect Dis. 2017 Apr 4;17(1):240.
 
 
⦅原因微生物⦆
・AFBNので尿培養は59%で陽性(41%が尿培養陰性になり、E.coliが最多で検出された。
・AFBNの19%で血液培養が陽性になり、69%がE.coliであった。
BMC Infect Dis. 2017 Apr 4;17(1):240.
 
⦅基礎疾患⦆
女性に多い(2:1)。
・年齢は小児〜高齢者のどの世代でも起こりうる。
・AFBNには、糖尿病、妊娠、尿路奇形、過去の呼吸器感染症、腎移植後、飲酒・薬物の使用、自己免疫疾患、AIDSが関与。
生来健康であっても、AFBNは起こりうる。
BMC Infect Dis. 2017 Apr 4;17(1):240.
 
⦅CT⦆
・造影CTは診断に有用
造影効果が低下した不均一な楔状の腎実質が特徴である。病変は単一もしくは多発している。➡︎ 非複雑性腎盂腎炎、腎膿瘍との鑑別に重要(*治療方針が異なる)
(Maeshiro T, et al. BMJ Case Rep 2014. より引用)
cortical rim sign陰性がAFBNと腎梗塞の鑑別に重要である。(BMJ Case Reports. 2014;2014:bcr2014205199. doi:10.1136/bcr-2014-205199.)
・病変周囲の造影効果がない、壊死濃度でないことは膿瘍形成との鑑別に有用かもしれない。
 
⦅超音波⦆
・病変はhypoまたはhyperechoicである。
・病変はドップラー血流が低下している。(Eur J Ultrasound. 2001 Jul; 13(3):201-4.
・いくつかの症例では、CTでAFBNの所見を認めるが、超音波では認められなかったと報告されている。BMC Infect Dis. 2017 Apr 4;17(1):240.
上部尿路感染症の症例では、全例に超音波検査を施行すべき!!
 
⦅治療⦆
・抗菌薬静注が推奨される。
・Empiric therapyではE.coliと他のGNRをカバーできる抗菌薬を選択する。
・通常の腎盂腎炎と比較して、治療反応性が幾分悪く、治療期間は、腎盂腎炎より長くなる
 ▶︎ 3週間未満の治療期間では再発を起こすことが多い
   疾患の治療経過(疼痛の改善など)を考慮して決定する。
BMC Infect Dis. 2017 Apr 4;17(1):240.
 
参考文献;
BMC Infect Dis. 2017 Apr 4;17(1):240.  PMID 28376724
  AFBNのliterature review
BMJ Case Reports. 2014;2014:bcr2014205199. doi:10.1136/bcr-2014-205199.   PMID 24895397
    AFBNの症例報告(臨床写真)、特徴的な画像
 

高カルシウム血症の鑑別診断

・血清Caの正常範囲:8.6-10.4 mg/dL

⦅血清Caの重症度⦆
mild: 10.5-11.9 mg/dL
moderate: 12.0-13.9 mg/dL
severe: >14.0 mg/dL

⦅Ca代謝
・骨 99%、細胞内液 1%、細胞外液 0.1%
・体内のCaは、消化管吸収腎臓排泄によって規定される
・血中Ca:3分画に分けられる
  1, 遊離蛋白と結合 45%
  2,  陰イオンと結合 10%
  3, イオン化 45%
 *イオン化されているものだけが生理学的に活性化している
・イオン化Ca↑、総Ca→:アルカレミア、アシデミア、Caキレートの存在
・イオン化Ca→、総Ca↑:低Alb血症、高Alb血症、多発性骨髄腫
・補正Ca=総Ca+0.8×(4-血清Ca)

⦅臨床症状⦆
①一般的症状:易疲労感、倦怠感
②中枢神経症状:焦燥感、抑うつ傾向、せん妄、錯乱、意識障害
③尿濃縮障害:多尿、腎不全
④循環器系:血圧上昇、QT短縮
⑤消化器系:高ガストリン血症→食欲低下、悪心、嘔吐、胃潰瘍
⑥その他:偽痛風、皮膚掻痒感

*高Ca血症の心電図変化:QT短縮  重症例ではST上昇型心筋梗塞に類似する

・軽度高カルシウム血症(12mg/dl以下)ではほとんど無症状かあっても脱力感、易疲労感などの非特異的症状が主となる。
・高度高カルシウム血症(14mg/dl以上)では傾眠や意識障害などの中枢神経症状、脱水や腎不全などを呈しやすくなる。➡︎内科的緊急症

⦅鑑別診断⦆
まずはPTHの測定
 ・PTH 依存性(PTH正常〜高値)
 ・PTH非依存性(PTH低下)
PTH依存性高Ca血症
    最多、原因:副甲状腺腫・過形成・癌(稀)、MEN1・2と関連
    副甲状腺癌s/o:触知可能なら頸部腫瘤、高度高Ca血症、PTHの著名な上昇(正常上限の3-10倍以上)
    慢性の二次性副甲状腺機能亢進症が是正された時(血液透析が始まった時)
    末期腎不全
 ・家族性低Ca尿性高Ca血症
    副甲状腺におけるCa感受性受容体の過剰発現、後天性も報告されている
    尿中Ca↓
PTH非依存性高Ca血症
①薬物性
 ・ミルク-アルカリ症候群
    高Ca尿症+高Ca血症、腎機能障害、大量のCa(少なくともCa 2g/day)と吸収可能なアルカリの摂取(炭酸Ca)
 ・ビタミンA, D
 ・サイアザイド系
 ・リチウム
   リチウム服用患者の15%で生じる
②悪性腫瘍
 ほとんどの高Ca血症を来す悪性腫瘍は、乳癌、肺癌、多発性骨髄腫
 ・PTHrP:乳癌、扁平上皮癌、腎細胞癌、卵巣癌、non-Hpdgkinリンパ腫、子宮体癌
 ・局所的な骨融解:乳癌、多発性骨髄腫、リンパ腫
 ・1,25(OH)2vitD:リンパ腫、卵巣腫瘍(germ cell tumor)
③肉芽腫性疾患
 ・サルコイドーシス
 ・結核
 ・多発性血管炎性肉芽腫症
 ・ヒストプラズマ症
 ・Crohn病 
④内分泌疾患
 甲状腺中毒症
 ・副腎不全
 ・褐色細胞腫
 ・先端巨大症
⑤他の原因
 ・不動症候群

参考文献: Frameworks for Internal Medicine p100

GCAに対する症状、所見、血液検査の診断精度

頭痛、scalp tendernessのような古典的なGCAの特徴は、GCAの尤度比と関係しなかった。
一つの症状、所見、検査結果ではGCAを診断することは困難で、それらを組み合わせることが重要である。
 
68のコホート研究のメタアナリシス(14000以上のGCA疑い症例)
 ・31%が適切な検査(例、側頭動脈生検)でGCAと診断された
 ・GCAの尤度比↑
   四肢の跛行
   顎跛行
   側頭動脈の肥厚
   側頭動脈に拍動低下
   血小板 40万以上
   ESR>60 mm/hour
 ・GCAの尤度比↓
   年齢 70歳未満
   ESR<60 mm/hour
   CRP<2.5 mg/dL
 ・頭痛、全身症状、筋痛、scalp tendernessはGCAの尤度比と関連していなかった

文献:JAMA Intern Med. 2020;180(10):1295-1304. 

3枝病変におけるFrank's sign BMJ case report

症例
高血圧症、糖尿病、脂質異常症のある78歳男性。11年前に心筋梗塞を来して、経過をフォローされていた。当時は、右冠動脈、左前下降枝、左回旋枝に植え込み型bare-metalステントが留置された。
10年前のフォローアップのアンギオグラフィーでは狭窄の程度に著変を認めなかった。
 
主訴:急性発症の胸痛
到着時、バイタルは正常。身体所見ではFrank’s sign(耳朶の線状)を認められた。

f:id:jmu43-doctors:20201021210444p:plain

アングオグラフィーでは3枝病変を認められた。

f:id:jmu43-doctors:20201021210513p:plain

冠動脈バイパス術を施行され、胸痛は改善した。
 
〈Frank’s sign
・1973年にFrankにより提唱された所見である。
・冠動脈危険因子と関連しており、急性冠症候群の予測のために供述された。
・35年間の長期の大規模の前向き試験では、Frank’s sign・男性型脱毛・眼瞼黄色腫のような視覚化された年齢と関連する所見は暦年齢や他の冠危険因子と独立して虚血性心疾患のリスクになることを示した。
・年齢と共に耳朶の線状の有病率は増加するため、60歳未満のFrank’s signは診断価値のある身体所見とされている。
 
引用文献:Ono R, et al. BMJ Case Rep 2020;13:e239173. doi:10.1136/bcr-2020-239173