〜日々の勉強報告〜@日本三景

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薬物性肝障害 NEJM 総説

〈基本知識〉
・薬物性肝障害(Drug-induced liver injury)は診断と治療が難しい。
・発生率:14-19症例/ 100,000人
・薬物性肝障害の診断は、他疾患の除外が基本であるため、時として困難である。
 
・診断のポイントは4つ!
 ① latency:被疑薬の投与時期
 ② dechallenge:被疑薬中止後の改善
 ③ rechallenge:再投与による再発
 ④ phenotype:臨床的特徴
 
・薬物性肝障害に特異的なバイオマーカーは存在しない。
 肝生検、画像、血液学的検査は他疾患の除外に有用である。
 
・1200以上の薬物が肝障害を引き起こすとされる。
 →有用なサイト:LiverTox(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK547852/
〈薬物性肝障害のタイプ〉
・薬物性肝障害は、直接型(Direct)、特異体質型(Idiosyncratic)、間接型(Indirect)に分類される。
① Direct  Hepatotoxicity
 ・薬物の肝臓に対する毒性に起因する。
 ・頻度:多い
 ・量との関連:あり
 ・予想可能か?:可能
 ・再現性:あり
 ・潜伏期間:短い(1-5日程度)
② Idiosyncratic Hepatotoxicity
 ・肝臓への毒性はほとんどない薬物による。
 ・頻度:稀(1/2000 - 1/100,000)
 ・予測可能か:不可能
 ・量との関連:なし
 ・再現性:なし
 ・肝細胞障害型、胆汁鬱滞型、混合型に分類される。
  → R ratio(=ALT比/ALP比  *ALT比= ALT/正常上限, ALP比= ALP/正常上限)
  肝細胞障害型:R ratio ≧5
  胆汁鬱滞型:R ratio ≦2
  混合型:R ration 2-5
③ Indirect Hepatotoxicity
 ・薬物の毒性よりも薬物の作用に起因する。
  潜在性の病態の増悪(自己免疫性肝炎の惹起、HBV/HCV脂肪肝の増悪)
〈主な病型〉
① Direct  Hepatotoxicity
・高ビリルビン血症なしにALT, ALP上昇があり、ほとんど症状がないのが、直接的な肝障害の特徴である。
・薬物の中止・減量により肝障害は改善する。
急性肝臓壊死(acute hepatic necrosis)が最も多い病型である。
 ・急性肝臓壊死は、単一の高容量・容量の増加により、直ちに肝障害をきたす。
 ・ALTは極めて高値を示すが、ALPは軽度の上昇である。
 ・重要例では、凝固異常・高アンモニア血症・意識障害といった肝不全を数日できたす。
 ・原因薬物:アセトアミノフェンアスピリンナイアシン、アミオダロン、多くの抗癌薬の高容量
類洞閉塞症候群(sinusoidal obstruction syndrome)は、急性障害と類洞上皮の喪失により、類洞血流の閉塞と肝障害をきたす。
 ・通常、薬物が原因となり、特に造血幹細胞移植前に投与される骨髄破壊薬が最も多い原因である。
 ・投与1-3週間後に腹痛、肝腫大、黄疸をきたし、肝不全に到ることがある。
 ・原因薬物;ブスルファン、シクロホスファミド、モノクローナル抗体(ゲムツズマブ-オゾガマイシン)
節性再生性過形成(Nodular regenerative hyperplasia は、食道静脈瘤・腹水を伴う非肝硬変性門脈圧亢進症をきたす。
 ・原因薬物:抗癌薬の長期または複数回投与(アザチオプリン、メルカプトプリン、チオグアニン)、第1世代ヌクレオシド系抗レトロウイルス薬(ジドブジン、スタブジン、ジダノシン)
 ・治療:薬物の休薬(および類似の薬物の回避)、門脈圧亢進症の管理
小滴性脂肪沈着を伴う乳酸アシドーシスは、腹部不快感・脱力などの非特異的症状、肝不全を伴う意識障害をきたす。
 ・時としてアスピリンによるReye症候群のような肝障害をきたす。
 ・発症時期:数日(アスピリン、テトラサイクリンiv)、数週(リネゾリド)、数ヶ月(ジダノシン)
 ・治療:責任薬物の中止、糖の投与、アシドーシスの是正
 
② Idiosyncratic Hepatotoxicity
急性肝細胞性肝炎が最も多い原因である。
 ・潜伏期間:5-90日
 ・症状と経過は急性ウイルス性肝炎と似ている。ALTの顕著な上昇、ALPの軽度上昇。
 ・原因薬物:イソニアジド、ニトロフルイトラン、ジクロフェナック
胆汁鬱滞性肝炎は、著しいALP上昇を伴う、顕著なそう痒感や黄疸が特徴である。
 ・薬物性胆汁鬱滞型肝障害はself limitedな病態で、長期化することもあるが、最終的には治癒する。
 ・原因薬物:amoxicillin-clavulanate, cephalosporins, terbinafine, azathioprine, temozolomide
薬剤誘発性混合性肝炎は、肝細胞障害型と胆汁鬱滞型肝炎をきたす薬物によって生じる。
 ・良好な経過を辿る事がほとんどで、肝不全に到る事は稀。
 ・原因薬物:fluoroquinolone、macrolide、phenytoin、sulfonamide
・idiosyncratic drug-induced hepatitisは、発熱・皮疹・好酸球上昇といったアレルギー症状を伴う(薬物過敏性を示す?:DRESS症候群やSteven-Johnson症候群)事がある。
 →主な原因薬物:allopurinol、carbamazepine、phenytoin、sulfonamides、macrolides
Bland cholestasis(=肝小葉内および門脈域での壊死性変化)
:長期にわたる顕著な黄疸
 ・女性では、エストロゲン製剤・経口避妊薬によって生じ、男性ではボディビルディングや運動能力向上のために不正に入手されたanabolic steroidsで生じる事が多い。
 
③ Indirect Hepatotoxicity
​・薬物が本来持っている肝毒性効果ではなく、薬物の作用に起因するものである。
 →肝疾患の誘導または増悪を意味する。
脂肪肝:体重増加をきたす薬物(risperidone、haloperidol)、トリグリセリドの性質を変化させる薬物(lomitapide)、インスリン感受性を変化させる薬物(glucocorticoid)
・急性肝炎:抗がん薬によるB型肝炎の再活性化, 高レトロウイルス薬によるC型肝炎の免疫再構築や増悪
・最近増えているのが、免疫調節薬やTNF阻害薬、劇的なもので免疫チェックポイント阻害薬によるものである。
 
〈薬物誘発性肝障害の最近の主な原因〉
・2004年-2013年の間で米国内の5-8医療施設におけるidiosyncratic drug-induced liver injuryが疑われる1000例以上のデータ(下表を参照)

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・上位25の薬物は、潜在的な肝障害ではなく、治療期間や使用頻度を反映していると考えられる。
・top10中の9つの薬物が抗菌薬であった。
 
〈ハーブとサプリメント
・ハーブやサプリメントによる急性肝障害は増加傾向にある。
・米国の研究では、ハーブまたはサプリメントによる肝障害の割合は、2004-2007年の7-9%から2010-2014年には19-20%に増加している。
・これらの製品は、減量・ボディビル・性機能・幸福感・精神力向上を目的とした多成分のサプリメントである事が多い。
・肝障害の原因となる特定の化学物質は定かではない。
・人気のあるサプリメントが肝障害に関与していることが判明すると、製造者は成分を変更して、同じ名前で製品を販売し続けることがある。
 
文献:N Engl J Med 2019; 381:264-273