〜日々の勉強報告〜@日本三景

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オプソクローヌス-ミオクローヌス症候群

症例
 高血圧アルコール使用障害の71歳男性。
 3ヵ月間のめまい,複視,運動失調で当院に来院した.
 神経診察では運動失調、構音障害、動作時振戦、下肢近位筋のミオクローヌスを認めた。
 急速、非規則的、動揺性、多方向の眼球運動が認められ、オプソクローヌスの状態であった。
 チアミンを含む初期の血液検査の結果は正常であった。
 CSFでは感染症は否定的で、好中球 8/mL(基準値≦5)、タンパク質 88 mg/dL(基準値≦35)、オリゴクローナルバンド 5(基準値<4)を示した。
 患者の血清はMa2 IgG抗体陽性であった。
 頭部MRIでの所見は目立たず、FDG-PETでは癌の証拠は認められなかった
 抗Ma2抗体陽性脳炎によるオポソクローヌス-ミオクローヌス症候群と診断された.
 グルココルチコイド、血漿交換、リツキシマブによる治療が開始され、初期にはオポソクロヌスとミオクロヌスが軽減された。失調は進行し、シクロホスファミドによる追加治療を受けたにもかかわらず、患者は発症から1年後には車椅子を使用していた。
(N Engl J Med 2020; 383:e84より引用)
 
 
〈オプソクローヌス-ミオクローヌス症候群〉
基礎知識
・Dr. Marcel Kinsbourneがオプソクローヌス-ミオクローヌス症候群(OMS)に関して初めて供述した。
 (J Neurol Neurosurg Psychiatry. 1962; 25:271-276.)
・オプソクローヌス:水平方向・垂直方向・ねじれの位置の多方向性への眼球運動によって特徴付けられる衝動性眼球運動である。衝動性は急速で、不随意で、リズミカルなパターンに従わない
・ミオクローヌス:急速な異常運動
  陽性ミオクローヌス:ショック様の筋収縮
  陰性ミオクローヌス;筋緊張の抑制
 ミオクローヌスはてんかん、尿毒症、低酸素脳症、アルコール離脱症候群などの多くの異常状態で認める。
 *生理的なもの、精神的なものもある。
・OMSは、オプスクローヌス・ミオクローヌス発作・運動失調を特徴とする原因不明のまれな状態である。
 → 傍腫瘍効果または感染症によって惹起された、中枢神経系を標的とした自己免疫性・炎症性の反応。
・OMSは, その臨床的特徴から”dancing eyes-dancing feet”症候群と呼ばれる。
・OMSは、成人例と小児例どちらも報告されている。小児例では約半数が神経芽腫と関連している。
・成人21症例を検討した報告では、主な主訴は浮動性めまい、ふらつき、悪心・嘔吐であった。(Arch Neurol. 2012; 69:1598-1607.)
疫学
・発生率は約1/5,000,000人年で稀な疾患である。(Eur J Paediatr Neurol. 2010; 14:156-161.)
神経芽腫との関連
・小児例では、神経芽腫による傍腫瘍症候群としてOMSを呈する事がある。
・OMSを呈した小児の48%神経芽腫を認めたという報告がある。(Curr Opin Pediatr. 2010; 22:745-750.)
・対照的に神経芽腫の小児の約2%のみがOMSを呈する。(Childs Nerv Syst. 2010; 26:359-365.)
神経芽腫以外の関連(ウイルス、薬物、外傷、傍腫瘍症候群)
・ウイルス:インフルエンザ、ウエストナイル、CMV、HHV-6、HIVHCV
・Mycoplasma pneumonia、salmonellaの先行感染
・水痘、麻疹、ジフテリア・百日咳・破傷風ワクチン摂取後との関連も報告されている。
・中毒、代謝異常との関連も示されている。
 →フェニトインの過剰摂取、ジフェンヒドラミン中毒、高血糖高浸透圧症候群、コカイン中毒などが報告
・傍腫瘍症候群:肺小細胞癌、乳癌など
治療
・薬物治療:OMSの薬物治療は免疫抑制が基本。コルチコステロイドがよく使用される。
・手術:神経芽腫が基礎疾患として存在すれば、神経芽腫の手術適応を考慮するべきである。
 
文献:
・症例:N Engl J Med 2020; 383:e84(オプソクローヌスの動画あり)